【詩】茶碗

茶碗

茶碗が割れた
洗い終わって
立てかけようとしたときに
茶碗が割れた
パキン と
まじりけのない音をたてて
空気を切り裂き
ベクトルを断ち切るようにして
茶碗が割れた
まるで
ここ最近の私の
鬱屈や膿や厄を
振り払うかのごとく
何の迷いもなく
ただ潔く
茶碗が割れた
赤い稚拙なトンボの柄の
さして思い入れもないと思われていた
私の茶碗は
日々の手垢とともに
知らず知らずのうちに
湯気の立ったごはんと一緒に
吐き出された溜息まじりの雑感をも
受け止め続けていたらしい
そしてようやく
この日を待っていたとばかりに
なにくわぬ顔して私は
無造作にその破片を集め
無造作に新聞紙でくるみ
ワレモノ キケン としたためて
すみやかに不燃ゴミとして捨てる
茶碗が割れた
よく晴れた朝である

 

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